キシルとカスカラとスルタナ

まめ蔵のメニューにも取り入れている「カスカラ」について書かれていると知り、現代化学248月号のコーヒーと化学のコラム『カフェ・シミック』と、静岡文化芸術大の武田淳 准教授が、総説や訳本を公開している、『スルタナ ボリビアにおけるコーヒーチェリーティーの歴史と利用』(著:マリア・ヒメネス、ジョアナ・ジャコビ)を合わせて読んでみました。せっかくなので、エルサルバトルのカスカラを飲みながら。

旦部幸博氏が寄稿する今回の『カフェ・シミック』のテーマは、『キシルとカスカラ』です。武田淳氏の訳本の『スルタナ ボリビアにおけるコーヒーチェリーティーの歴史と利用』では、「スルタナ」と書かれていますが、「キシル」も「カスカラ」そして「スルタナ」も、同じくコーヒーの果皮・果肉であり、コーヒー豆を取り除く過程で「廃棄物」として捨てられてきたものを飲用に加工されたものです。

ただし、「キシル」が深夜の修行の眠気覚ましに飲まれた、コーヒーの実を乾燥させた後に丸ごと焙煎して煮出したブンのカフワと、豆を取り除いた果実と果肉を火入れして煮出したキシルのカフワの二通りあったそうな。そして、キシルが「スルタナコーヒー」として宮廷で飲まれる高級品の扱いを受け、豆からつくるコーヒーは庶民が飲んでいたという、現在とは逆転していたことを知り驚きです。

カスカラとは、コーヒーの果皮・果肉を表すスペイン語で、現在ではコーヒー豆を取り除く過程で「廃棄物」として多くが捨てられていますが、イエメン(キシル)、ボリビア(スルタナ)、中米(カスカラ)と名前は変わるものの、コーヒーチェリーに関する食文化の史的変遷を辿ると、「コーヒーチェリーを食べる」という食文化を知ることになりました。

 ただし、コーヒーのように「カスカラ」が再評価されて利用の広がりを見せるかといえば、必ずしもそうならないのではないか。実際に「カスカラ」を扱ってみて、コーヒーのような飲用習慣を持つような人も現れないし、「カスカラ」に対して興味を示す人も少ないのが実態ですから。コーヒーに比べて魅力的ではないということです。

 意外だったのが、そうした「廃棄物」の多くが肥料になると思っていたものが、実は、肥料として直接土壌に散布してしまうと土壌環境の悪化を招いてしまう可能性があること知った点です。また、コーヒーの果肉・果皮には、タンニンやフェノール化合物、カフェインが含まれているため、食物中の栄養素の吸収を抑える効果があり、動物の飼料として直接使用することは出来ないことも。ただし、10%未満であれば飼料に混入させても、反栄養反応を引き起こさないことや、堆肥と混ぜて土壌に散布すれば、土壌環境の悪化を招くこともないことも同時に知りました。 

 本当に知らない事ばかりです。珈琲屋と名乗っているのに、コーヒーに関する知識は浅煎りのごとく浅知恵なのでした。