アートとともにへ

先日、お客様から、「とうしん美術陶芸美術館」で『アートとともに』という、今年秋の国際陶磁器フェスティバル美濃の副催事の障害者アート作品展「アール・ブリュット美濃展」協賛催事(929日)が行われていると聞き、多治見市へ行ったついでに覗いてきました。

同館は、東濃信用金庫が美濃陶芸作品永年保存事業で購入した作品などの所蔵コレクション等、現代美濃陶芸の作品を展示する事を目的としており、今回のような障害がある人たちが手がけた作品を展示するのは初めてです。展示会場には、個人のほか、障害者支援施設「第一陶技学園」や、多治見市本町の生活介護事業所「クリパラボ」、障害者福祉施設「優が丘」の人たち、東濃特別支援学校の生徒の作品が展示されていました。

「アール・ブリュット美濃展」の協賛催事であるため、障害者の作品展示を行ったのだろうけれど、そもそも、アール・ブリュット=障害者による美術と理解されている事に違和感を覚えます。日本語では「生(なま)の芸術」とも訳されるアール・ブリュットは、1940年代にフランスの画家、ジャン・デュビュッフェ(1901-1985)が提唱した概念です。彼が同時代の芸術家や文化人らと交流を深める中で、既存の文化の影響を受けずに独特の制作を行う障害者や独学の作り手などの作品に心を惹かれ、それらを「アール・ブリュット」と呼び、調査や収集を行ったものです。

確かに、デュビュッフェによるコレクションにも、精神障害者による作品が含まれていますが、彼にとって「制作者が障害者であること」は決してアール・ブリュットの条件ではなく、むしろ、そこに見いだせる「生(なま)」な部分が重要だったはずです。既存の凝り固まった文化芸術を超越する、枠にとらわれない創造力を見いだしていたからでしょう。

 今回のように、障害者の作品展示だと括ってしまっては、「好き」とか「嫌い」、「よくわからない」といった自由な感想が、途端に、「障害があるのに凄い!」とか、「やっぱり独創的だよね。」などと、変ってしまう恐れがあります。なんだか、健常者と障害者のアートの線引きされたようで、自由な場である芸術の空間が分断されてしまうことを危惧します。

 また、障害者のアートを無理やりにでも発掘しようというような、行政の働きかけといったものも地元の障害者施設の方との会話でも感じますし、障害者といいながら、全ての障害者を対象にしているというより、一部の知的障害者にスポットを当てようとしているところにも違和感を覚えています。この嫌な違和感が、日本で「アール・ブリュット」という言葉が盛んに使われ出した56年くらい前から気になっていました。

 今回、この「とうしん美術陶芸美術館」での『アートとともに』を鑑賞するにあたり、このモヤモヤをなんとかしようと調べてみたら、平成30613日に公布,施行された、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」を見つけます。

この法律の「第1 法律の概要」の中の、「3 基本的施策」の「(4)芸術上価値が高い作品等の評価等 1」では、「国及び地方公共団体は,芸術上価値が高い障害者の作品等が適切な評価を受けることとなるよう、障害者の作品等についての実情の調査及び専門的な評価のための環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとすること。」とあります。はて?「芸術上価値が高い障害者の作品」とはどんな作品なのか?適切で専門的な評価って誰がどのようにするの?「障害者の作品等についての実情の調査」って、結局、障害者施設や特別支援学校が対象になるってことなの?

この一文だけでも疑問だらけです。特別支援学校は文部科学省だから評価の対象は理解できるものの、障害者施設は厚生労働省ですから、そもそも評価とは無縁の中で作品の作成をしているのです。それに、適正で専門的な評価を誰が行うのか、その指針はあるのか不思議でなりません。

また、「(6)芸術上価値が高い作品等の販売等に係る支援」では、「国及び地方公共団体は、芸術上価値が高い障害者の作品等に係る販売、公演その他の事業活動について、これが円滑かつ適切に行われるよう、その企画、対価の授受等に関する障害者の事業者との連絡調整を支援する体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとすること。」とあります。これって、障害者の表現をめぐり、教育的考え方の他に、販売というビジネスの考え方が入り込むことになります。本来、そうした思惑と異なる世界で作品作りをしているところに、外部の怪しい力学が入り込みそうな気がします。

 まあ、そんなことを考えながらも、いったん忘れて『アートとともに』を楽しむため、「とうしん美術陶芸美術館」へ入りました。ここは無料なのがいいと思いながら展示スペースを進むと、引き込まれてしまうブースがあります。はがき程の大きさの紙に、「〇月〇日〇時、〇〇で〇〇の妖怪を見た」と記し、奇妙な妖怪たちが何枚も並べられています。そして、壁には謎の魚の口から飛び出す妖怪たちです。

 作者の名前を見ると「堀 和暉」とあり、気になったので、帰ってから調べてみると、多治見市の「社会福祉法人みらい」の就労継続支援B型事業施設で、病院などで使われるタオルや白衣、検査着、シーツ、枕カバーなどのクリーニング作業を行っているようです。20231月発行の第40号「けやきだより」では彼の紹介がされており、絵を描き始めたきっかけについて、次のように語っています。

「保育園の頃に人間じゃない動物やカービィなどを描いていました。保育園の頃からお化けが好き、舌切り雀に出て来る妖怪が気になり、小学校高学年の頃は水木しげるさんの 妖怪図鑑をよく見ていました。4年ほど前はみんなには見えていない妖怪が見えていました。」とありました。なるほど。

 

今回は、アール・ブリュットがどうのこうのってことよりも、楽しい作品を見つけたってことが収穫でした。