チューリップを見ながら

店の前の花壇には、昨年秋に妻が植えたチューリップが咲き始めました。昨年のブログを見ると328日に記録しているので、10日以上遅く咲いたことになります。これも桜の開花予想が外れたことと同様に、3月の寒さが影響したのでしょうね。

 そんなチューリップの花を覗いて見ると、雄蕊(おしべ)から花粉が溢れ出しそうになっています。ですが、雌蕊(めしべ)はこの段階では、まだ未熟なままなのです。雄蕊が萎れた頃に、ようやく雌蕊が成熟するのです。このように、雌蕊と雄蕊で成熟する時差があるのは、同じ花の中での自家受粉を防ぐためで、他の花との間で受粉をすることで、強い次世代が残そうとしているそうなのです。これを「自家不和合性」と呼びます。

生き物の多くは、近親結婚が数世代続けば、その子孫の集団は遺伝的に均一となってしまい、遺伝的多様性が失われると同時に、集団内の個体は繁殖能力が低下する場合が多いことが知られています。植物は動物と異なり動き回ることができないため、地理的に遠く離れた個体との間で子孫作るチャンスが少ないうえ、多くの植物では、生殖器官である花のなかに雌蕊と雄蕊が同居しているために、必然的に自家受粉しやすい構造になっています。

したがって、自家受粉を回避し、同一種内の他の個体から由来する花粉で受精する(他家受精)という他殖性の機構を進化の過程で獲得してきたんだとか。この仕組みが、地球上に被子植物が広がった成功の要因の一つであると考えられており、被子植物種の半分が自家不和合性であり、残り半分が自家和合性(自家受粉)であると推定されているそうです。

 普段飲んでいるコーヒーの元となるコーヒーノキにも、この自家不和合性と自家和合性の二つが存在します。一般的に、レギュラーコーヒーの主原料となるアラビカ種、缶コーヒーやインスタントコーヒーの主原料となるロブスタ(カネフォーラ)種、それに極僅かに飲まれているリベリカ種をコーヒーの三原種と呼びますが、アラビカ種は自家和合性を持ち、他は自家受粉では種子が作れない自家不和合性という性質を持っています。

ここで違和感を思えるのは、自家不和合が近親交配を回避し様々な環境に適応できるような子孫を残すため、植物が進化の過程において獲得した巧妙な遺伝的機構であるならば、自家和合性を持つアラビカ種というのは、進化できないまま今日まで永らえてきたことになります。あれだけ様々な品種と交配され、多くの品種を持っているアラビカ種が、その交配の過程を経ても自家和合性を持ったままであることが不思議でなりません。 

そんな事を思いながら、色とりどりに咲くチューリッピを眺めておりました。

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コメント: 2
  • #1

    帰山人 (水曜日, 10 4月 2024 18:55)

    う~む、アラビカが《進化できないまま今日まで永らえてきた》といえるのかは微妙だと思います。自家不和合から自家和合へと種が移る場合もある意味の‘進化’といえるワケで、氷期を生き延びて耐寒性を獲得し高地に適合したアラビカも、(耐病性とか捨ててしまった形質もあるけれども)新たに獲得した形質の種だともいえるような…。
    まぁ、万年単位で自家和合化して多様性を捨ててまで孤独に生き延びた‘進化のどん詰まり’のままのアラビカという昔昔の状態と、それを人類に好き勝手に増殖させられ伝播させられたアラビカというここ百年単位の状態。アラビカとホモサピエンス、いったいどちらが‘進化のどん詰まり’にある種なのか? そう私は考えているのであります(笑)

  • #2

    まめ蔵 (木曜日, 11 4月 2024 08:28)

    おっしゃるとおり、私は進化の過程の一断片のみを見ているだけですからね。そして、自家和合性を持つアラビカ種だからこそ、たった一本の木だけでも移入できれば、そこから取れた種子を元に、子孫となる植物を大量に増やしていくことが可能だった訳で、今の私がその恩恵を受けている面もありますし。