森本彰とアール・ブリュット展

今から30数年前、手話サークル活動の中で、ある脳性まひの男性と関わる機会がありました。花を育てることと詩を書くことが趣味だったことから、自費出版で詩集を出すこととなり、編集や詩集の発送などをお手伝いする貴重な経験をしたのです。さらには、彼が書き溜めた絵画を展示する絵画展を行うまで進展しました。全ては、彼がエネルギッシュで意欲的だったこともあり、周囲が引っ張られていった感じがしたものです。その力強さや優しさが、彼の作り出す詩や絵にも表れており、障がい者だから生み出したというよりも、たまたま生み出した人が障がい者だったという感覚を持ったものです。

 芸術の分野では、「アール・ブリュット」という言葉があります。「生の芸術」を意味するフランス語が元になっており、その解釈は人によって、「正規の美術教育を受けていない人による芸術」「既存の美術潮流に影響されない表現」などと説明されることが多いです。しかし、日本ではその中の一部分でしかない「障害者の表現」としてアール・ブリュットが推進されている面があります。

 ある民間団体のアール・ブリュットの説明を見ると、「障害のある人の芸術・文化活動を通じて、障害のある方の社会参加と障害への理解が深まり、障害の有無をこえた交流が広がることを目指す活動です」とあるように、障害のある方の社会参加と障害への理解が目的となって芸術から遠ざかる傾向にあるのです。

 企業が関わってアール・ブリュットの展覧会が行われると、規模が大きくなって多くの人の目に留まる機会が増える半面、企業にとってのイメージアップやタイアップ・グッズの販売に利用されることもあります。また、行政の主導で開催される場合は、補助金を交付している福祉団体へ協力依頼が行われ、障がい者の意に反して描くといった場面も出ています。最近では、アール・ブリュットとSDGsを結びつけようとする動きもあり、本来の姿と異なるものになっています。

そうした企業や行政とも関わらず、障害者の表現に限定された展示よりも幅の広い内容を扱う展示として行われているのが、瑞浪市地域交流センター「ときわ」で開催中の『森本彰とアール・ブリュット展』(228日まで開催)です。会場には、発達障害児の放課後等デイサービス「じょんのびハウス」の小学生を中心に、森本彰さんや東濃地方の絵画愛好者ら、19人が出品され、色鉛筆やマーカーなどで描いた絵画32点と、オブジェ(流木アート)3点を展示されています。

森本さんは、東濃ニュースの取材で次のように話しておられます。「障害者だからといって、驚くような作品ばかりではない。『普通に見える作品』の中にも、悲しみや苦しみなど、子供たちの内面を表現しているものがある。健常者・障害者といった別なく、まずはフラットな目線で鑑賞していただき、興味がわいたら、その先にあるものを知っていただきたい。大人が選んだ児童絵画や、学校が教える美術作品とは違う、『普通の作品』から、新鮮さや豊かさを感じてほしい」と。

 会場には、段ボールが飛び出たユニークなものから、森本さんの作品の下に並んだ風刺漫画のような対比が面白く感じたり、何を使って描いたんだろうかといった作品が並びます。気になったのは、少女が涙を流す横顔でした。いったい何があったんだろうかと、思わず立ち止まりす。 

 定休日の午後、コーヒーのことや店のことを忘れる時間を過ごしました。