あるコーヒー産地のこと

コーヒー生豆商社より、次のようなメールがありました。『コーヒー生豆相場は依然として高値で推移しております。ブラジルでの干ばつと霜害による被害により、次年度の供給不足が見込まれていることが主たる要因となっております。年初の相場価格は125セント/lb前後、現在は205セント/lb前後に達しており、年初比で60%程高騰しております。また世界的なコンテナ不足、原油高により、海上輸送価格も軒並み大幅値上げとなっている現状がございます。コモディティのみならず、プレミアム商品も例外なく仕入れ価格が大幅に上昇しております為、随時価格改定を行って参ります。』とあり、今後、徐々にコーヒー生豆価格の上昇に合わせて、販売価格の見直しが必要になりそうです。

そうした価格変動リスクは、ある意味必然なので致し方ありません。それでも、量的に増減はあるものの品物は入荷するので良いのですが、政治・経済・社会情勢の変化によるカントリーリスクの場合は、そもそも日本国内に入荷しないこともあるのです。それを危惧しているのが現在のエチオピアです。

内戦状態にあるエチオピアでは、113日にアビー首相が全土に緊急事態宣言を発令しました。北部ティグレ州での戦闘の激化を受け、市民に自衛を求めたという報道です。930日には、国連職員7名が国外に追放されましたという報道があったばかりでした。

 ティグレ州では、昨年11月からティグレ人の民兵組織ティグレ人民解放戦線(TPLF)と政府軍の衝突が続いており、市民生活にも大きな影響を及ぼしています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、すでに46000人以上が北西に隣接するスーダンに逃れただけでなく、国内避難民も170万人にのぼるようです。以前は、コーヒー産地のウオッシングステーションが破壊されたといったニュースがありましたが、今では、流通にも支障をきたしているようです。

 多民族国家のエチオピアは、1991年に各民族の武装組織が参加して連合体エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成し、当時の社会主義政権を倒します。その後、EPRDFが与党として事実上の一党体制を形成してエチオピアを統治してきたのです。その与党の中心的存在だったのが民兵組織ティグレ人民解放戦線(TPLF)であり、ティグレ出身者で要職を固めていたのです。そうなると当然、他の組織・民族の不満は徐々に大きくなっていきます。それが、エチオピアで最大の人口を占めるオロモ人であり、ティグレ人と激しく対立していくことになります。

 そして、エチオピア政府内でのティグレ人とオロモ人の力関係が逆転していき、ティグレ人は要職を追われ、昨年11月には政府を握るオロモ人が、かつての主流派TPLFをテロリストと断定して衝突することになったのです。 

 最近では、隣国エリトリア軍がエチオピア北部で活動し、略奪や市民殺害、人道物資搬入の阻止などに関わっているという報道や、中国が絡んでいるとか、様々な情報が出てきています。まったく先が見えない中、エチオピアのコーヒー産業が今後どうなるのか気がかりなところです。しばらくエチオピアのコーヒーが飲めなくなる時が来るのか?どうなんでしょうか?でも、そうなったらそうなったらで、飲めなくなったコーヒー産地の事情にも、少しは関心を持ってくれるのかもしれませんが。