コーヒーの講演

『コーヒーの科学』、『珈琲の世界史』といった本の著者である旦部幸博氏が、職場の滋賀医科大学学園祭(若鮎祭)でコーヒーについての講演を行い、Youtubeで配信されていること知り、自宅のパソコンから昨夜視聴しました。

 講演内容は『コーヒー:美味しさと香味成分』と題した、植物としてのコーヒーノキからコーヒーの歴史、焙煎されたコーヒーができるまでの過程について。そして、焙煎されたコーヒーの香味特性、さらには、その香味がどのように生まれ、美味しさとどのように関わっているかといった内容でした。

 珈琲屋としてコーヒーについて話す機会の多い私とって、相手に分かりやすく話すことはもちろん、コーヒーオタクと呼ばれるような方からコーヒーにあまり興味がない方まで、コーヒーについて関心を持っていただける幅広い知識が必要です。どのような切り口で、どんな表現方法がされるのか、そこのところが大変興味ありました。

講演の後の質問コーナーも面白く、「一昔前からの変わり種の品種が、最近では風変りな精製が、一部でもてはやされていますが、それら品種や精製の差による特徴は、「コーヒーのおいしさと香味成分」にどれほど関与しているものですか?」については、その後もTwitter上で意見交換がされていました。

旦部氏は「過剰な恣意性」という難しい表現を使っていましたが、意図的な着香が商業主義によりもてはやされ、あたかもありがたい商品のようなイメージが植えつけられようとしている今日がたかこその話題でした。

その他、興味ある質問が時間により割愛され、Twitter上で回答する形になったため、記録する意味で掲載しておきます。

Q:微生物を研究しながら、普段どのようにコーヒーの研究を行っておられるのですか?

A:基本的にreference workというか、文献調査が中心です。研究や教育の目的で、普段からいつも論文検索してますが、そのついでで、コーヒーに関するものも定期的にチェックしてます(そうした中から、現在連載依頼を受けているコラムに書くネタを探したりもする

Q:ウォッシュトの中で登場する果肉を分解する役割を担う微生物はどのようなものなのですか?身近にいるのでしょうか?

A:身近にいます。川の水の中などにいる細菌や酵母などが中心です。多くの生産地では、発酵水槽に入れる水は、そうした自然水を引いてきて利用することが多いので。一応、どういう菌が多いかを調査した論文が複数でてて、土地土地で若干違いはありますが、香味に対しては*そこまで*大きく影響しない模様

Q:コーヒーをいれてから全部飲み切れずに置いておくことが多々あるのですが、長時間置いておいても味が悪くならない方法はありませんか?

A:ぶっちゃけて言うと、ありません。ただし、加温しっぱなしだと成分の変性が早くなるので、しばらく飲まないのであれば、いったん冷まして、後で(電子レンジでいいので)温め直す方が、トータルで見ると劣化は少ないです。

Q:私はコーヒーを飲み終わった後の舌に残るような酸味が苦手なのですが、その酸味は豆由来の酸味なのでしょうか、それとも質がわるくなってるが故の酸味なのでしょうか?

A:「舌に残るような酸味」が具体的に、どの酸味成分によるものか、推し量りようがないのでわかりません。

Q:近年、嫌気性発酵が用いられたコーヒーが増えているようにおもいます。嫌気性発酵のメリットは何でしょうか?

A:「メリットは何か」と言われたら、いちばんのメリットは「嫌気発酵」という言葉につられて、高く買う人が増えることです。いや、割とマジで。メリット/デメリットということではなくて、香りの変化が生まれることは確かですが。じゃあ、その「香りの変化」は、嫌気発酵でないと生まれないのか、と言われたら、必ずしもそうとも言えず、いわゆる発酵系ナチュラルとかハニー精製とかでも、それなりに似たような香味は出てきます。結局のところ「発酵方式が何か」より、「結果としてどういう香味に仕上げるのか」が大事。 

 「嫌気発酵のメリットは高く買う人が増えることです。」、こんなことは業界の人からは聞けない言葉です。だから、こうした人がコーヒーに関する本を出すから素晴らしいのです。ついでに、専門分野の感染症に関する、新型コロナウイルスの感染者数が急激に減った要因についても聞きたかったな。

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コメント: 4
  • #1

    帰山人 (月曜日, 01 11月 2021 18:34)

    ひとつだけ、「過剰な恣意性」という旦部さんの発言は、その直前に私が《恣意性を過剰に取り込んだ分類は単なる宣伝文句と区別がつかない》と投じた論を受けたもの、と指摘しておきます。
    https://twitter.com/kisanjin/status/1454853728297635840

  • #2

    まめ蔵 (月曜日, 01 11月 2021 19:11)

    ご指摘ありがとうございました。
    それにしても短い講演時間でした。質疑応答から面白くなるのに残念でなりません。是非とも近場で講演の企画を作っていただきたいと思ったしだいです。なんとかなりません?

  • #3

    帰山人 (月曜日, 01 11月 2021 20:39)

    《なんとかなりません?》って私に言われても(笑)
    旦部さんは以前にも増して特定の珈琲屋の販促扱いになることを厭うので、なかなか講演会の設定は難しいところです。ま、次の出版を機に何か仕掛けてみてもいいかもしれないけれど…少し策を練ってみます

  • #4

    まめ蔵 (火曜日, 02 11月 2021 06:42)

    その時は臨時休業にして出かけて行きます!