淘汰の時代

 『新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて消費者がコーヒーの買いだめに走り、生産休止や移動制限で供給が乱れるなかで、コーヒー豆の需要が3月に急増し、焙煎業者は対応に追われている。』(日経電子版416日)こんな記事が出始めたと思ったら、『新型コロナウイルス感染が広がる中、専門店のコーヒー豆が人気を集めている。』(東京商工リサーチ53日)と、急にコーヒー豆の人気が高まったかのような雰囲気になりました。 

前出の消費者というのは誤りで、アメリカのバイヤーの事であり、専門店のコーヒー豆が人気を集めているというのは、新型コロナの感染拡大の影響で、馴染みの百貨店や商業施設のコーヒー豆専門店、喫茶店が次々に休業しているため、コーヒー好きの人やテレワークで在宅時間が多くなった人が一時的にコーヒー豆を購入したにすぎません。確かに、『4月に入り、コーヒー豆の販売がいつもの2割から3割増えた』と話す店主の記事もありましたが、そう長くは続かないはずです。 

 一部の珈琲屋さんの情報では、普段の個人向け豆売りが2倍になったとの話を聞いていましたが、羨ましいなんて思ったこともなく、むしろ、一時的な急激な上昇には必ず急激な減少が伴うという、当然ともいえる反動に対して準備をしなければいけないと肝に銘じたものです。 

 時々来店される珈琲狂との会話の中でも、以前から飲食店や珈琲屋の淘汰が始まっていること何度も話したものです。実際、昨年の12月には、東京都世田谷区下馬に本拠を置くコーヒー豆販売の「株式会社NOZY珈琲」が倒産し、その流れが進むだろうと予想していたのです。そこへ、今回の新型コロナウイルスがさらに流れを加速させようとしています。若者をメインターゲットとする店舗や、豆売りの珈琲屋が一時的に売り上げ増となったとしても、あくまでも例外だと考えたほうが良いのです。 

 お客様との会話からも、株価の異常な上昇に反して景気後退は明らかで、秋以降の受注に見込みが立たないとの話を何度も聞きます。「なんとなく立ち寄る」程度のお客様は間違いなく減少するため、「まめ蔵を目指していらっしゃる」ような店づくりが求められます。もっとも、そんなことは開業時から考えるべきことであり、いまさらどうこうすべきものではないのですが。 

私自身、開業時に自分の店のコンセプトやターゲティングを明確にし、1年後、5年後、10年後のビジョンを持ちながら進めてきました。苦しい時こそ「コロナのせいで!」と言い訳せず、開業した時のことを思い出しながら、「自分がやるべきこと」、「自分だから出来ること」を形にしなければなりません。始める事よりも続けることが難しい飲食業だからこそ、足元を見つめる必要があると思うのです。