ワークショップへ(2)

 先日のワークショップでの講義では、幾つかの資料が参加者へ配布されました。ところが、モニターに映し出された資料映像には、配布された内容以上のものが含まれており、ギリギリまで講義内容を準備されたことが想像できます。その中で、特に新鮮に感じたのが「認知科学的」という言葉でした。 

 その時に使用された内容が次のものです。 

『認知科学的にみた“売れる商品”の条件』 

・限定商品:季節商品、月替り商品(頒布会) 

・消費者参画商品:共同開発品など、根底ニーズの掘り起こし 

・グループ商品:消費シーンなどグループ化 

・シリーズ商品:オークション品、自社選択品など 

・新ブランド商品:商品のコモディティ化対策 

・シーズ発想の商品:提案型商品 

・柱商品の周辺ラインの拡大:ドリッパーなどとのシナジー 

・シンプル、ベーシックな商品:基本味覚路線の確定 

・遊びと癒し商品:楽しさ、ストリーテリング 

認知科学(Cognitive Science)とは、「心とは何か、心はどのように働くのか」という疑問を追求する学問分野のひとつです。1970 年代から学問分野としてのアイデンティティを確立し始めた比較的若い学問なのです。 

例えば、人が物を買う場合、本質的に私たち人間は合理的かつ論理的理由ではなく、遺伝的欲求、感情的な側面で99%、買う買わないを決断しているというのです。そうした、人はなぜ購入したのか?この人はなぜ購入しなかったのか? 顧客行動をデータに基づいて議論するもので、これにより、マーケティングが机上の空論ではなく、顧客中心のもっとリアリティのある理由を探るものへと進んでいきます。 

行動経済学者で2002年にノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンという人物がいます。彼の発表した理論によると、Aさんの年収が1000万円から800万円に減給となった場合と、Bさんの年収が400万円から600万円に昇給となった場合、どちらが幸せに感じるかというと、明らかにBさんではないかと考える人が多数です。しかし、合理的・論理的には受け取る年収800万円Aさんの方が多いので、Aさんが幸せなはずです。 

彼の理論では、この受け取る絶対額の「状態」ではなく、「変化」に焦点をあてたものであり、幸せ・満足は、今の状態からの変化であるため、商品を売るには、顧客の今の状態を定義し、そこからどれだけ変化できるか? それを分かりやすく伝達することになります。「絶対量ではなく変化の幅」、どう変化するかを目に見える形で提供するかを、上記の“売れる商品”の条件として例示してあるという訳です。 

これまで、自分なりに様々な施策を行ってきました。ただ、それらは自分自身が興味のある事柄、それをすると楽しそうといった単純な理由からでした。もちろん、「自分が楽しいことは、お客さんも楽しいのではないか?」という発想も含まれてはいるものの、決して論理的でもないし、科学的な根拠はありません。ただ、販売データや顧客の購入状況を把握しながら数字は意識していた施策でしたが、そうしたものを認知科学的に説明されると、意外と的外れではなかったと思え、何だか新鮮に感じたしだいです。 

そうとうはいっても、商売は結果が全てですから、こうすれば必ず成功するというものでもないですし、全く異なったアプローチで成功している方も存在しています。今後も柔軟な頭で、変化を楽しむくらいの姿勢で取り組みたいものです。