灰釉のコーヒーカップ

 先日、UCC滋賀工場へ見学に行った際、UCC歴代の缶コーヒー等が並ぶ展示室で、場違いな陶器のコーヒーカップを見つけました。この工場では、コーヒー抽出時のコーヒー・カスをバイオマスボイラーの燃料として活用しており、その灰から釉薬を作ってコーヒーカップや盆器などの陶器作品を製作しているようです。

 この取り組みは、滋賀県を活性化するために活動している「滋賀県立大学生」と、UCC滋賀工場、滋賀県を代表する信楽焼の窯元「谷寛窯」が共同で開発した物で、「NETSU(ネツ)」というブランドで販売されています。「NETSU(ネツ)」という名前を付けたのは滋賀県立大学の学生で、 

Never 

Ending coffee 

Tanikangama 

Shigarakiyaki 

Ucc coffee 

の頭文字なんだとか。コーヒー豆を陶器という永遠のものに、という構想当初の想いが込められているそうです。このコーヒーカップで飲むコーヒーは格別に美味しく感じるだろうかと思い、隠れて触ってみると意外に重くて微妙な感じでした。 

 このコーヒー・カスから作られた灰を使用した灰釉について、時々来店される窯元の方に話を伺うと、原料の灰の種類によって異なる発色があることなどの説明を受けます。灰釉は大別して柞灰(柞の木を焼いた天然灰)、土灰(雑木を燃やした後に残る木灰)、わら灰(藁を蒸し焼きにした天然灰)3系統に分類され、それぞれ淡青、淡青緑、乳白色のができるようです。スマホでわら灰の作品を見せてもらいました。 

美濃焼といわれるこの地は、飛鳥時代(7世紀前半)の須恵器に始まるといわれ、地元の需要の一部を満たす程度の細々とした営みを続けていました。平安時代(9世紀後半)になると現在の愛知県にあった猿投窯から新しい焼き物「灰釉陶器」の生産技術を導入します。この灰釉陶器は、9世紀初めに猿投窯で開発された日本初の高火度施釉陶器であり、猿投窯の陶工たちの移住によって開始されたと考えられる美濃窯の灰釉陶器生産は、10世紀に入ると窯数・生産量ともに猿投窯を次第に凌駕し、北は青森から南は九州まで日本全国へと美濃窯の製品が流通するようになったようです。 

UCC滋賀工場で見た灰釉のコーヒーカップを見て、その灰釉陶器生産によって東濃地方が窯業地として確立した背景を知る機会となりました。