ダテータ農園のカッピング

 ブラジルのミナスジェライス州・パトロシーニョ市に位置するダテーラ(Daterara)農園は、 2750haという広大なブラジルを代表するコーヒー農園です。2750haというと釧路湿原の2,700haと同じくらい、もっと分かりやすく言えば山手線の内側とほぼ同じ広さになります。

 今回、そのダテーラ農園で取り組まれている、エアロビック・アナロビックといった、味わいの多様性を産み出すプロセスのコーヒーをカッピングするため、神戸にあるUCCコーヒーアカデミー神戸校へ行ってきました。

 ダテーラ農園では、クラシックラインと呼ばれるブラジル独特の香味を待つ豆が75%生産されており、残り24%がコレクションラインと呼ばれ、よりエレガントで、より甘い特性を持つ豆、さらに、今回カッピングを行ったマスターピースと呼ばれる1%のコーヒー豆が生産されています。

 ブラジルでは、フレーバーやテイストに大きく影響を与える天候、土壌、地形や標高が他の国と比べて特筆すべきものが少ないため、一般的にシンプルなコーヒーのイメージが付いています。そこで、この農園では、120種類もの品種がテスト栽培され、マスターピースと呼ばれる実験的な発酵処理方法が4年前から行われています。

 この農園を知ったのは私が珈琲屋を始める前で、各地のコーヒー農園の動画を探していた際に、この動画を見つけ、手摘みをしている中米やアフリカの産地との大きな違いに驚いたものでした。そして、今、その農園で試験的に作られているマスターピースのカッピングをする機会を持つことになり、何かの縁を感じることになったのです。

 カッピングは15種類あり、ニュークロップオークションロットの斬新なコーヒー豆ばかりです。一般的には個々のロットに対して、豆の品種や精製方法のみを明記するのですが、この農園ではブラジルの音楽や神話になぞらえたネーミングを付けており、今年はブラジル文学の主人公になぞらえたネーミングになっています。そして、各カップの上にはその主人公のイラストが並べられるという、ちょっと趣向の効いたカッピングです。

 その15種類の中で、前回記したファーメンテーションの特徴のあるエアロビックは2種類、アナエロビックは11種類、そしてハニーが2種類となっており、圧倒的にアナエロビックが占めています。こうなると、どれも甘くてフルーツの香りが漂い、桃なのか、トロピカルフルーツなのか、ベリー系かメロンかってくらい、口の中がフルーツの香りが広がります。どれも新鮮で美味しいのですが、毎日飲みたいコーヒーかといえば考えてしまいます。

 興味を引いたのが、それぞれに使用されているコーヒー豆の品種です。Catucai Gesha くらいは知ってはいたものの、Naomi  Catigua  Acaua  Laurina  Aramosa  Guara  Arara といった豆が本来どんな味覚特性があるのか全く経験がなかったので、ファーメンテーションによる変化が分かりませんでした。さて、この中から将来有望なコーヒー豆となるものが生まれるのでしょうか? 

ファーメンテーションの説明では、同じエアロビック(Aerobic)でも水の多い少ないで差を設けたり、アナエロビック(Anaerobic)では、バケツ程度の小ロットで実験したり、様々な菌を加えたり、発酵温度をコントロールしたりと多様な取り組みがされています。そうして作られた15種類のロットは200kg程度の小ロットではあるものの、ユーザーの嗜好を知る上での貴重な意見に繋がると考えており、栽培の難しい品種であっても、将来を見据えた実験的な取り組みには大きな意味があります。

 「ダテーラ」とは、ポルトガル語で「母なる大地から」を意味する言葉のようです。1902年にイタリアから移民としてコーヒー農園を始めるも挫折し、その後、自動車部品メーカーとして国内に200店を構える会社となります。そして、1976年に再度「母なる大地」へ農業という形で投資が始まった経緯があります。だからこそ、他には真似のできない企業的な商品開発が行われるのかもしれないと思ったのでした。