再び海外移住と文化の交流センターへ

 三ノ宮駅(現在の元町駅)から山ノ手に向う赤土ではなく、赤レンガの歩道の坂道を歩く。この道を朝10時頃から何台も自動車が駆け上って行く。それは殆んど絶え間もなく後から後からと続く行列というほどではない。この道が丘につき当って行き詰ったところに黄色い無装飾の大きなブルディングが建っている。後に赤松の丘を負い、右手は贅沢な尖塔(せんとう)をもったトア・ホテルが過去にあったことに由来するトアロードという道ができている。昔は黒く汚い細民街に連なっていたであろう丘のうえの是が「国立海外移民収容所(現在の海外移住と文化の交流センター)」である。

 こんなふうに石川達三の『蒼氓(そうぼう)』らしく、2年ぶりに訪れたのが海外移住と文化の交流センターです。前回は三ノ宮駅から歩き始めましたが、今回は元町駅から歩いてみました。なぜなら、小説では「三ノ宮駅」となってる場所は、現在の三ノ宮駅の場所にはなく、元町駅にあたりにあったそうで、その後、三ノ宮駅が東に移ったことを知り、再び小説のように歩いてみることにしたのです。

 元町駅の隣にある交番は、建物の先端にステンドグラスがあり、ブラジル風の建物になっており、そこから交流センターに向かう鯉川筋の街路樹にはイペの木が使われています。このイペの木は和名がノウゼンカズラで、可愛い黄色の花が咲きますが、この花はブラジルの国花です。あいにく剪定されたばかりのようで花は咲いていませんでしたが、海外移住と文化の交流センターに植えられた木は満開でした。

 交流センターは国立海外移民収容所として作られたことから、40日間の船での生活に慣れるために、建物全体が船の構造と似たものとなっており、外観も横から見ると大きな船のような形に見えます。中にある移住ミュージアムは無料で入れるため、訪れるための坂道を我慢できればお得な観光スポットで、イメージを膨らませながら当時の様子を想像してみます。

 そして、実際に人々が歩き生活した場所に立つことは、本やネットでは得られないものがあると感じながら、長い坂道を下って行きました。