チューリップの花を見ながら

 このところの春の陽気に誘われてか、お店の花壇にはチューリップの花が咲き始めました。毎年秋に妻が球根を植えてくれるので、色とりどりの花に恵まれながらお客様を迎えることができます。感謝!感謝!ところで、今日は「さくらの日」だそうですが、桜はもう少し先になるのでチューリップのお話です。

 このチューリップは、16世紀、オスマントルコから神聖ヨーロッパ帝国の大使ビュスベクが、「トルコ語のターバンに由来する花の球根」を見つけ、故郷のヨーロッパに持ち帰ったのが世に広がった始まりだそうです。その後、フランスの植物学者カロルス・クルシウスにその球根を贈られ、希少な植物としてその球根を国内で紹介し、球根の栽培と研究のため、花を育てるのに適したオランダに移りました。

 オランダは平地で土壌が肥えているため、花を育てるのに最適な地形をしており、そんな土壌を利用し育てた球根を貴族や大商人などに売ります。彼らは花壇の中央に高価で貴重なお花を植えて、風景の中で色彩を際立てることで自分の偉さやすごさを見せつけたことから、チューリップは当時のオランダ人にとって富の象徴とされ、高値で取引されるようになったのです。

 そして、収集家が現れて品種を花の色で分類し、「無窮の皇帝(むきゅうのこうてい)」など名前をつけ、希少性でランク付けをしながら富の象徴としてのチューリップ収集を楽しんでいましたが、1630年代にはオランダのみならず、ドイツやイギリスの資産家の間でもチューリップを収集することが広がり、17世紀はじめには、珍しい品種にはアムステルダムで小さな家が買えるほどの額で売買されたとか、一般国民の平均年収の約5年もの価格がついたこと言われています。

 チューリップの様々な模様は、アブラムシが球根に運ぶウイルスが原因で起こるもので、この模様の突然変異のことを「ブレイク」と呼ばれるのですが、当時はその理由が分からないため、ブレイクした花が咲く球根からとれた子球根を育て、運よく綺麗にブレイクすれば一般市民でも大金を手にすることができました。そして、フランスで球根の価格が上がっているとの噂が立ち始めること、一般市民もこぞって球根を買い求めてチューリップ市場に参入します。

 すると、これまで市場の中心にいた大商人などの裕福層は、一般市民が球根を買いあさって球根価格が高騰しだすと、チューリップ市場から東インド会社などの株に投資をしていきます。逆に、チューリップ市場は一般市民による人数が増え、これまで相対取引で行われていたものが、居酒屋で酒を飲みながらまとめて球根の入札が行われるようになりました。

 チューリップ投機が最高潮に達した1636年〜1637頃には、実際に球根が育つ前から春に手に入る球根を売買する先物取引のようなことも行われ、現物もない中で実体のない取引が増えることになり、球根価格は平均年収の30倍もの値が付くものまで現れます。

 そんなバカげたことが長く続くはずもなく、チューリップの値上がりで盛り上がる163723日、何の前触れもなく突然チューリップ価格が暴落します。これが、世界最初のバブルとして、「チューリップ・バブル」なんて言われ、いまでも時々話題となります。

 この話、どこかコーヒーにも似通った部分もあり、アブラムシが運ぶウイルスってのが、ルワンダのコーヒーに現れるポテト臭の原因にも似ているし、居酒屋で男たちが商売や政治を語る姿が、ロンドンのコーヒーハウスの光景にも似ていたり、そして、希少価値の球根に人々が金に目をくらんで群がる様子が、現在のスペシャリティーコーヒーにも通じて、なんだか同じことを繰り返す人間に呆れる思いがします。

 そして、お金持ちは結局損をせず、踊らされた一般市民だけが損をするのも似ています。「くわばらくわばら。」