日日是好日

 1013日公開の映画「日日是好日」、今では一日に一回のみの上映回数となった、約2ヶ月後に観賞してきました。この映画は、エッセイスト森下典子さんが約25年にわたり通った茶道教室での日々を綴った「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」を、黒木華主演、樹木希林、多部未華子の共演で映画化されたものです。

 「本当にやりたいこと」を見つけられず大学生活を送っていた20歳の典子が、お茶を習い始め、就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けた日々や、失恋、父の死という悲しみのなかで、気がつけば、そばに「お茶」があったことに気付く。がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。「ここにいるだけでよい」という心の安息感。雨が匂う、雨の一粒一粒が聴こえる季節を五感で味わう歓びとともに、「いま、生きている」その感動を茶道のように静かに表現しています。

 タイトルの禅語である「日々是好日」や、茶道に由来する「一期一会」という言葉は遠い昔から使われており、千利休がお茶を体系化した安土桃山時代には、織田信長や豊臣秀吉の天下でした。「昨日、元気だった友達が、今日殺されたなんてことがたぶんいっぱいあって、この人に会うのも今日が最後になるかもしれない、っていう切迫感がいつもあったんじゃない?」というセリフを聞きながら、のほほんと生きている平和な現代の日本に生きている感覚と、随分意味の深さが違うことに気づかされます。

 「世の中は、前向きで明るいことばかりに価値をおく。けれど、そもそも反対のことがなければ、『明るさ』も存在しない。どちらも存在して初めて、奥行きが生まれるのだ。どちらが良く、どちらが悪いというのではなく、それぞれがよい。人間には、その両方が必要なのだ。」原作にはこんな言葉がありますが、いろいろあった自分の人生も、そんな風に思えるようになったと年齢の積み重ねを実感します。

 また、そうした自分を全て受け入れているからこそ、今こうして新しいスタートを切っている訳で、珈琲屋としてはまだまだ未熟なのだけれど、体に馴染むまで繰り返し日々精進し、自分なりの器を作った後に、焙煎や抽出の心が入れば良いと思えるのです。教えられた答えを出すことでも、優劣を競争することでもなく、自分で一つ一つ気づきながら、自分の方法で、あるがままの自分の成長の道を作ることができたら、なんと素敵な人生だろうか。

 そんな事を考えながら、「帰ったら、久しぶりに妻にお茶を点ててもらおう!」と思い、地元の和菓子屋「旭軒」に立ち寄ったものの、定休日でシャッターが閉まってるのを見て、締まらない現実に戻されるのでした。