冬をやり過ごす

 青森県では紅葉が始まっており、奥入瀬渓流は黄色い木々と苔の緑、一部の木が紅く染った色のコントラストが美しく、八甲田は一面の紅い山が燃えているかのように見えました。ところが、お店の周りの紅葉はまだまだ先のようで、近くにある八剣神社のイチョウは青く、ハナミズキが紅くなった程度です。11月中旬には市内の数か所で紅葉のライトアップが行われる予定ですから、できれば散策しようと思っています。

 紅葉を見ると何となくセンチメンタルな気分になります。それは、勢いのあった濃い緑から黄色や紅に染まる光景が老いるように見えたり、なによりも落葉が人生の終焉をイメージさせるのかもしれません。けれど、落葉広葉樹にとっては冬をやり過ごす逞しい選択だったりします。

 樹木には葉の形や構造によって、細い葉を持つ針葉樹と、表面積の大きい葉を持つ広葉樹とに分けられ、さらに、1年中緑の葉を持つ常緑樹と、秋から冬に葉を落とす落葉樹があります。針葉樹のほとんどは常緑樹ですが、広葉樹には常緑樹と落葉樹があり、それぞれを常緑広葉樹、落葉広葉樹と呼び、秋になると葉の色が変わるのが落葉広葉樹です。

 この落葉広葉樹は、冬が近づいて気温が低くなり、雨が少なく乾燥しやすい条件では、光合成の効率が悪くなります。葉が光合成で生産するエネルギーより、葉を維持するのに必要なエネルギーの方が多くなると、樹木自体を維持することが困難になるため、自ら葉を落とし、できるだけエネルギーを消費しないように冬をやり過ごすプログラムが遺伝子の中に組み込まれているらしいのです。実に合理的な逞しい選択をしているのが分かります。

 そして、葉の付け根に離層と呼ばれる組織がつくられ、そこで葉が茎から離れることで引き起こされるのが落葉です。この葉を落とす前に、葉の中に残った栄養分を再利用するため、葉の光合成色素を分解して、樹木に回収する期間が紅葉や黄葉の期間となるのです。

 実はこの話、奥入瀬渓流ホテルのラウンジで行われている「森の学校」というプログラムで、ネイチャーガイドの方に教えてもらった内容です。早い話が受け売りなんで自慢できることではないですが、樹木の生きる術に感心したと同時に、色々な生き続ける選択肢があるのだと改めて思いました。珈琲屋始めて3年半程が経過し、なんとかこれまで続けてこれましたが、それこそ冬の到来があるのかもしれません。果敢に挑戦するのか、じっと維持して我慢するのか、または落葉広葉樹のような別の選択をするのか、そんなことを考えながら紅葉についての話を聞いていたのでした。

 ちなみに、栗はお客様からいただいたものです。お店に来る途中で拾ったといって日々手渡してくれるので、もう少し増えたら栗ごはんにしようと思っています。