コスタリカのカーボン・ニュートラル

 以前、「幸福なんだけど」という内容で、コスタリカが世界幸福度指数で一位になったことや、常備軍を持たない国として特異な存在であること記載しました。しかし、中米諸国の中では比較的所得水準が高い一方、地域間の所得格差が顕著であり、コスタリカ国家統計調査局によれば、同国の貧困率は全国平均が20.0%、首都圏が15.7%である一方、地方では首都圏の約2倍の30%前後となっている地域もあります。

 また、財政状況はリーマンショック後にプライマリーバランスが赤字化して以来、赤字傾向が続いており、2017年の財政赤字対GDP比は6.2%2016年は5.2%)と、過去35年間で最悪の値となっています。特に、公務員の高額な給与・退職金・諸手当が問題となっているほか、増税を含む税制改革が喫緊の課題となっています。

 かといっても、 人口485.7万人(2016年)のコスタリカは小規模国家でありながら、一人あたりの名目GDP11775ドル(2016年)と中米諸国の中では比較的所得水準が高く、治安のよい国であることは間違いありません。

 また、1940年にコスタリカの国土の75%を占めていた森林被覆率は、人口の増加と経済発展にともなう開発等により、1987年に21%まで減少したものの、1980年代後半からは森林保全、生物多様性保全のための先駆的な政策、活動を実施した結果、森林面積は2010年に52%程度まで回復するに至っています。そして、自然を利用したエコツーリズム発祥の国としても知られています。

 さらに、意外と知られていないことが、コスタリカ政府が20159月に温室効果ガスの排出と吸収を相殺する「カーボン・ニュートラル」目標達成のためのロードマップを発表し、第一段階として2030年までに2012年比で約25%の温室効果ガス削減を宣言した事実です。もし計画どおりにいけば、世界初の脱CO2経済を達成することとなります。

 そもそも、コスタリカは再生可能エネルギー推進国でもあり、国内電力の93%を再生可能エネルギー(水力、地熱、風力他)で賄っており、中でも水力発電が全体の4分の3を占め、豊富な水資源を活用したクリーンエネルギー発電を推進しています。コスタリカ政府は国家開発計画で、「電源の95%を再生可能エネルギーとする」という目標を掲げており、最近では新たな地熱発電の調査も始まりました。

 また、電気自動車購入に際して優遇税制を適用するなどの制度整備し、日本とも二国間クレジット制度(JCM)を取り交わしました。そして、201803月には、三菱自動車の「アウトランダーPHEV20台と「i-MiEV(アイ・ミーブ)」29台が日本政府からコスタリカ政府に納入され、今後5年間に電気自動車を10万台導入する計画やEV用の充電インフラの大規模な拡充を検討されています。同時に、国内のEV推進のためにタクシーの買い替えを優先し、特に安定した収益の上がっている空港タクシー(オレンジ色)のEV化の計画もあるようです。

 こうした国家としてカーボン・ニュートラルへの取り組みを行っていますが、今後の人口増加と電力の需要増加見込みもあって、実のところ達成は難しい見通しで、現ソーリス政権はこの達成を2085年までに達成すると、目標を後退させたようです。

 そんな中にあって、アラフエラ州ナランホ地区にあるサンタ・アニタ農園では、コーヒーチェリーの果肉を肥料にし、果皮を燃料にするだけにとどまらず、農場の現地事務所とコーヒーミルが使用する電力の85%を敷地内に設置した太陽光パネルによってまかなっています。こうした取り組みによって、世界で初めてレインフォレスト・アライアンス認証と国際カーボン・ニュートラル認証の両方を得たコーヒー生産者となりました。

 遠く離れた国であるコスタリカですが、コーヒーを通じて見るべきところが多い国です。まだまだ課題も多く、コスタリカ全国で下水処理率は4%です。首都サンホセですら、汚水が未処理のまま河川に垂れ流される状況であったり、家庭で分別されたゴミも、回収された後に一緒に埋め立てられてしまうといった事例もあります。さらには、コスタリカ大学の調査によると、2011年にはゴミの25%が河川に棄てられたといいます。

 豊かな自然を売りにエコツーリズムの人気訪問地とは真逆な現実ですが、JICA(独立行政法人国際協力機構)の活動を見ていると、確実に改善されているように思えます。そして、コスタリカなら可能なのではないかと思えるのが、元気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長のクリスティアーナ・フィゲーレスのTEDスピーチです

 気候変動について、『「無理」という言葉は事実を指すのではなく発言する人の態度を表しているのです。(中略)私は気候変動に対する態度を変え、気候変動について尽力することに決めたのです。(中略)人類の運命を変えていくために一致団結して助け合うことは可能なのです』と述べ、楽観的な態度で徐々に変化が生まれ、不可能と思われたことがパリ協定で実現できた事例を挙げているの姿を見ると、コスタリカ独自の「プーラ・ビーダ」という言葉に代表される、生きる上でのポジティブメッセージの力を信じたくなるのです。