芸術と科学の杜へ

 祝日の定休日、普段は行動を共にできない妻からの依頼で、今日一日はお供を仰せつかりました。先ずは、お彼岸も近いことからお墓参りです。墓地の周りの草刈りでゴミ袋一杯となった草を持ち帰り、着替えて電車に乗って「芸術と科学の杜」へ向かいます。
 最初の目的は、名古屋市美術館開館30周年記念イベントの『至上の印象派展 ビュールレ・コレクション』( 7月28日~9月24日)です。ビュールレ・コレクションが2020年にチューリヒ美術館に全コレクションが移管されることになることから、今回はビュールレのコレクターとしての全体像がみられる最後の機会とあって、多くの人たちで賑わっていました。
 日本人には人気の高い印象派・ポスト印象派の作品は傑作揃いで、絵画史上、最も有名な少女像ともいわれるルノワールの《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》は、当時8歳であったイレーヌの栗色の豊かな髪やあどけない表情に、思わず引き込まれてしまいます。
 また、セザンヌの《赤いチョッキの少年》は、セザンヌの肖像画のなかでも、もっとも有名な作品であり、頭を支える腕の直線や、背中や手前に長く引き伸ばされた腕の曲線が、カーテンやテーブルクロスの斜めの線と絶妙な均衡を保っているそうだが、何度見直しても違和感を感じるのは私だけだろうか。
 その他、ドラクロワ、ドガ、マネ、ファン・ゴッホ、ゴーギャン、モネ、マティス、ピカソなど、豪華な作家たちの作品を同時に見ることができ、贅沢な時間が堪能できます。最後のコーナーには「新たなる絵画の地平」と題して、日本初公開となるクロード・モネ《睡蓮の池、緑の反映》が展示され、写真撮影OKというサービスまであります。
 素晴らしい作品を見終わった後にも、少しだけ複雑な思いが交錯します。ビュールレ・コレクションは、ビュールレ財団コレクション の日本語通称なのですが、美術収集家かつパトロンであったエミール・ゲオルク・ビュールレには二つの顔があったからです。第2次世界大戦中に製造した武器をナチスに売りさばく兵器商人としての顔と、ドイツ・ナチスが「非芸術」とスタンプを押した印象派に魅せられ、絵画を買い続けた収集家としての顔があります。
 特に問題視されることが多いのは、ユダヤ人に対する迫害がなければ決して買うことができなかった盗品を入手しているからです。ビュールレ自身も、いくつかの作品は盗品だと知っていながら購入していました。仮に当時はその購入が法的に正当化されようと、ユダヤ人の迫害に加担し、ましてや武器商人としての金で買い漁った背景が存在することを知れば、やはり感銘を受けた芸術作品とは無縁とは言えない気がします。
 芸術の秋に浸りたいと言った妻が次に希望したのが、美術館の隣にある名古屋市科学館です。そして、目的は現在開催中の、ですが『名探偵コナン 科学捜査展 -真実への推理(アブダクション)-』(7月14日~9月24日)です。印象派からアニメとギャップが大きいものの、希望とあっては最期までお供します。
 『数々の事件を解決し、今や時の人となりつつある名探偵・毛利小五郎。このたび小五郎を主人公にしたミステリー小説が出版されることになった。しかし、その執筆を担当するはずだったミステリー作家が自宅で殺害されているのが発見された。推定死亡時刻は14時。現場に残されたカレンダーにはハッキリと、こう書かれていた……。「14:00 毛利小五郎氏」果たしてコナンたちは、科学捜査を駆使し、見事、毛利小五郎の疑いを晴らすことができるだろうか?』
 こんなスタートで現場検証や聞き込み情報を元に、いくつかの科学鑑定を利用して犯人を特定するという内容なのですが、操作に先立ち「コナン&欄コース」と「コナン&安室コース」のいずれかの探偵手帳をもらってヒントを見つけます。もともと子供用の内容なので両方とも推理というレベルではないものの、毛利探偵事務所や喫茶アポロが再現されており、家族連れにはウケていたようです。
 そんな感じで一日お供をしたものの、名古屋市内の人の多さに疲れ果て、二人とも帰りの電車の中ではダウンしていました。人混みに弱い夫婦なのであります。