「ツバメがやってきた!」

 今朝、最初に来店されたお客様が開口一番、「ツバメがやってきた!」と笑顔で話されました。一人暮らしの高齢の方なので、巣作りを始めるツバメに家族が増えたような気持になられたのでしょう。昨年は巣作りが遅れたようで、「ついにツバメからも見放されたかな?」と弱気なことを話されていたため、ツバメには感謝したいものです。

 渡り鳥として知られているツバメは、日本が冬の間は台湾、フィリピンなど南国で冬を越した後、春になると日本に戻ってきます。日本から台湾、フィリピンまでの距離はざっと20003000㎞ほども離れているので、あの小さな体で、遙か彼方までたどり着く身体能力は、まさに驚異的といえます。

 ツバメは巣作りが終わると産卵、そしてヒナを育てます。親鳥はヒナたちにエサを与えるのですが、エサは農作物にとって有害な昆虫や幼虫などを食べてくれるので、以前は益鳥だといわれていましたが、近年は農薬の発達によってツバメのエサとなる虫は減少し、その影響でツバメの姿も少なくなってきています。

 こうした渡り鳥の保護を目的とした取り組みが、実はコーヒーの世界にもあります。1990年代後半、専門家によって北米と中南米を行き来する渡り鳥の減少が確認され、世界最大の学術研究機関であるスミソニアン協会が、調査研究・保護のため「スミソニアン渡り鳥センター」を設立しました。そして、鳥類学者・環境学者・地理学者が研究した結果、シェードグロウン(木陰栽培)を維持するコーヒー農園が渡り鳥の生息地となっていることを発見し、1999年に「バードフレンドリー」認証プログラムが始まりました。

 この「バードフレンドリー」の認証コーヒーとするためには、シェードツリーが農園の40%を覆っていることや、11種類以上の樹種で構成されていることが求められ、加えてシェードツリーの高さにも基準が設定されており、60%が12メートル以上の中木であること、20%が15メートル以上の大木であること、小木が20%あること等、厳しい条件が定められています。こうした条件を設けることで、熱帯の森林を利用したシェードグロウン(木陰栽培)かつ有機栽培で生産されたコーヒーをプレミアム価格で買い取り、生産農家を支えながら森林伐採も防止し、そこで休む渡り鳥を守るプログラムというものです。

 先日のコーヒーサロンの中でも、エル・サルバドルは渡り鳥の中継地点であり、シェードツリーの重要性も話されていました。自然環境を守り付加価値を付けて高価格でコーヒー豆が売れる、一見すると良いこと尽くめのようですが、日本のツバメと同様、全てがそうならない理由が必ず潜んでいるはずです。そうした視点も忘れないよう、ツバメが飛び交う空を見ながらコーヒーを一杯飲むことにしましょうか。