人生フルーツ

 定休日の朝、いつものように少し焙煎を行った後、特に目的もなかったので、映画『人生フルーツ』を見に行ってきました。この『人生フルーツ』は、2016年3月に東海テレビで放送され、第42回放送文化基金賞番組部門最優秀賞受賞したドキュメンタリー番組を劇場版として再編集したものです。2017年1月2日に劇場公開されてから、映画専門誌「キネマ旬報」の2017年ベストテンの文化部門第1位となりました。そして、『人生フルーツ』の舞台である春日井市高蔵寺に最も近いミッドランドシネマ名古屋空港では、アンコール上映が現在も継続しているのです。
 『人生フルーツ』は愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンの一角で暮らす津端夫婦を追ったドキュメンタリーです。90歳の夫・修一さんは建築家で、戦後の高蔵寺ニュータウンの設計に携わっていました。あることがきっかけで修一さんは雑木林の再生に関心を寄せ、40年前に300坪の土地を購入し、現在は妻の英子さんと二人で、時間をかけて作った雑木林に囲まれた30畳一間の平屋で暮らしています。87歳の妻・英子さんは自宅の敷地内の雑木林で野菜や果物を育て、採れた作物を使って美味しい食事を作り、夫と共に穏やかで自然に近い生活を送っています。
 ナレーションは樹木希林さんが担当していますが、ほんのわずか時間に限られ、二人の老夫婦の日常を淡々と描くだけのドキュメンタリーです。ただ、何気ない日々の中で、二人の妥協しない生活が見て取れます。安易な方、楽な方へと流されることが無く、丁寧に生きています。細かいところまで手を抜かず、自分にとって大切なことに関しては「まぁいいか、これで」では済まさない、人生の限られた時間を一つ一つ確かめるように、そして優しく生きています。その優しさが家の中や庭のあちらこちらに散りばめられており、見ているだけでホッコリとした気持ちになるのです。
 修一さんは「お金よりも人が大切」を信条に、関わった人たちに毎日10通近くの手紙を書くの日課です。手紙に添えられたイラストが味わい深く、自宅で育てている作物や雑木林の中の立て札に添えられたメッセージからも温かな気持ちが伝わってきます。私も絵手紙を時々書いていますが、とても毎日10通も書けません。また、英子さんも畑で採れた作物を丁寧に調理される様子を見ると、食べるという行為が命をつなぐ事であると実感させられます。
 「老後の行き方」というより、「人の生き方」として一つのモデルとなる映画ですが、人によっては、「修一さんは東大卒のエリート建築家で、若い頃からヨットが趣味、年金収入は今よりも断然多いし、家の裏山に雑木林、持ってるし。」などど、自分にないものを理由に言い訳をする人も多いのかもしれません。けれど、限られた人生だからこそ、いつも前を向きながらポジティブに生きる姿は、全ての人に受け入れられるのだろうと思います。