優しい時間

 前日の『お茶の時間』の後は、時間繋がりでドラマ『優しい時間』を動画サイトで見ることにしました。午前中の焙煎時間には本を読むのも良いのですが、集中すると時間と温度を見忘れてしまうので、ナガラ的にはドラマを見ながらというか、聞きながらが都合が良いのです。
 「優しい時間」とは、2005年1月に放送された富良野を舞台にしたドラマで、倉本聰が「北の国から」以来15年ぶりに連続ドラマの脚本を手がけたことで話題になった作品です。テーマは温かい人と人の絆であり、父と子の絆の再生を様々な人間模様の中で描いていきながら、同時に本当の優しさとは何かを、主人公の心の雪解けとともに描いていきます。
 その中心となる舞台が主人公の拓郎(二宮和也)の父である、勇吉(寺尾聰)がオーナーを務める喫茶店「森の時計」で、徹底したリアリティーを追求するために、倉本氏自らデザインした店舗を作り、現在も新富良野プリンスホテルに隣接した場所で「珈琲 森の時計」として営業しています。
 ドラマの中では、カウンターに座った客へ「挽きますか?」と尋ね、手挽きのミルを渡して豆を挽いてもらい、挽いたコーヒー粉をネルで淹れます。ネルの淹れ方は酷いものでしたが、カウンターで客自らが挽くコーヒーの香りが伝わるようで、「こんな店がやってみたい」と何度も思ったものです。
 森の中に建つ大きなログハウスの店と店内に設置された暖炉の火、こんな夢みたいな店はできないものの、その10年後には「まめ蔵」を始めたわけで、何だか不思議な気分になります。妻を亡くして傷ついていることもなく、不良息子とは正反対の可愛い娘二人の親であり、父と子の絆の再生も必要のない現実なのですが、唯一、カウンターを造ったところが似ている点でしょうか。
 実際に店主となった今、共感できるのは最終回の息子の拓郎と再会するシーンで、「寂しくないですか?」との問いに答えた言葉です。『それがな、ここにいて色んな人と話をしていると、どういうか、ひどく優しい気持ちになれるんだ。人に上手く取り入ろうとか、見捨てようとか、そういうことは、ここにいると何もない。ただ純粋に生きていられるんだ。』この言葉通りに生きている自分に、「優しい時間」は大切なものを思い出させてくれます。
 そして、森の時計の店内に飾られた倉本氏自筆の額の言葉、「森の時計は ゆっくり時を刻む」とあるように、自分の店でもお客様にゆっくりコーヒーを飲んでもらいたいと思っています。
 それにしても、ドラマの中で平原綾香の『明日』がタイミングよく流れ、涙腺が緩みっぱなしでした。恥ずかしい。