珈琲の世界史

 台風の影響もあって、雨の日が続いています。そんなこともあって来客数も減り、読みたかった『珈琲の世界史』(著者:旦部幸博序章 講談社現代新書)を読む時間が持てます。※来客が減って喜んでるのは私くらいか? 春にコーヒーの歴史本を出すと聞いてから、待ち遠しい思いをしていましたが、意外と時の経つのは早いものだと実感しています。

 コーヒーに関する本を読むのは楽しいもので、友人知人のプライベートな部分を覗くような気分です。よくコーヒー豆を購入される方や、先日のコーヒー教室では、「コーヒーのことを知ることは、長く付き合う人のことを知るのと同じで、より仲良くなったり、親密な付き合いができるようになりますよ。」と言っていますが、この本の著者も似たようなことを書いています。歴史というと堅苦しいようですが、相手の生い立ちとして(少々長いですが)、好きなコーヒーのことを知っておくのもいいではないですか。

 今回は、全体の感想ではなく、各章ごとに感じたことを書き留めていきます。

コーヒーの基礎知識
 たった7ページに簡潔で分かりやすくまとめられ、これから読み進める期待が高まった。
1章 コーヒー前史
 ホモ・サピエンスまで遡った考察から始まるコーヒーの起源。アフリカ大陸の地図を広げながら、以前映像で見た、エチオピアの奥に残るコーヒーのマザーツリーを思い出した。アフリカ大陸は人類ともに、コーヒーの起源であることを改めて感じる。
2章 コーヒーはじまりの物語
 医学者らしい切り込みと、その時代背景を基に推理と証拠集めのような展開は、下手な刑事ドラマよりも面白い。最後に「実は。」と、意外な事実を突きつけられる定番の断崖絶壁は、アラビア海か紅海なのか。そして、海を越えてイエメンに渡り捜査は続くのです。・・・
3章 イスラーム世界からヨーロッパへ
 コーヒーがヨーロッパへ広がるのには四つのルートが存在し、それぞれのストーリーを展開しながら、しだいに複雑に織りなす人間模様。心を癒すはずのコーヒーが発端で人が死ぬことも。もう、これは事件だ!
4章 コーヒーハウスとカフェの時代
 コーヒーが多くの市民が集まる場所を作り、政治、経済、文学までも動かすも源となったイギリス。中産階級で華々しく飲まれたフランスは、その後に政変引き金の舞台へ。ヨーロッパ各地で、人々が集う場の中心にあったコーヒーは、歴史の流れを常に見続けていたんだと思いながら、複雑な歴史の糸を解くため、コーヒーをもう一杯淹れようか。コリコリコリ。
5章 コーヒーノキ、世界へはばたく
 盗難、略奪、詐取など、苦難の中を潜り抜けて中南米へ広まるティピカ。安息の地で長く留まるブルボン。いずれも、アラビカという種による悪戯なのか、人間という生き物に翻弄される運命に、ただ驚くばかり。
6章 コーヒーブームはナポレオンが生んだ?
 中津川市「ちこり村」のちこり珈琲を飲み、ナポレオンと違って「不味い!」とドリップでコーヒーを淹れ直した。美味しさを求める欲求が、コーヒーブームの基になるわけか。なるほど。
7章 19世紀の生産事情あれこれ
 主要コーヒー産地となった国々の足取りを辿りながら、カップに注いだコーヒーの香りから過去を想像するも、アラビカとロブスタのブレンドのような味しかしない。頭の中がさび病に侵されたか?
8章 黄金時代の終わり
 ヨーロッパからアメリカへ舞台が移り、生産国から貿易国へ力関係が移る。戦争という大きな渦の中で、金がすべてを支配し始める様子は今も続いているが、「ネスレ」「アメリカン」「コーヒーブレイク」と、近代史は知らないことばかりでワクワクする。
9章 コーヒーの日本史
 足元の日本のことなど知らないことだらけ、自分もコーヒーの世界に足を突っ込んだのに恥ずかしいばかり。「なるほど。」「そうなんだ。」と、頷く度に恥じるのでした。
10章 スペシャリティコーヒーをめぐって

 この辺になってくると近所のおじさん、おばさんの話題程度まで近づいてくる。スターバックスの貢献度は大きいのは理解できるが、あれだけ人気なのに私には美味しさが理解できない。

終章 コーヒー新世紀の到来

 今後いくつの波が来るのか、あるのか無いのかも想像できませんが、日本にいればコーヒーの新世紀が見られるかもしれません。ガラパゴス的存在だった日本だかこそ、今日のような多種多様な抽出方法で高品質のコーヒーが飲める環境は、そうめったにないのだから。ちなみに、私の携帯は未だにガラパゴスです。

 こんな良い本なかなかありません。頻繁にコーヒーブレイクを入れながら読ませてくれる歴史本なんて、サービス良すぎです。でも、コーヒー好きが読み始めたら、巷の珈琲屋さんはウンチク言えなくなって困るだろーな。と、余計な心配をしてしまうのでありました。