コーヒーに憑かれた男たち

 秋を感じる季節になり、読書の秋ということで、久しぶりに「コーヒーに憑かれた男たち」(嶋中労著:中公文庫)を読み直してみました。というか、今日はケーキ作りも焙煎も一息ついたので、のんびりしているんです。

 この本は、主に日本を代表するコーヒーにこだわりを持つ、三人の男が紹介されています。コーヒーの生豆を10年以上寝かせた玉露のようなコーヒー、すなわちオールドコーヒーを売り物にした関口一郎(銀座「カフェ・ド・ランブル」店主)。自家焙煎コーヒーを世に広めた最大功労者の一人で、コーヒー業界きっての理論家、田口 護(南千住「カフェ・バッハ」店主)。コーヒーに生きがいのすべてを捧げており、自らを「コーヒー馬鹿」と称する標 交紀(しめぎ ゆきとし 吉祥寺「もか」店主)です。
 本のタイトルにあるように、コーヒーに憑かれた男たちは、コーヒーに対するこだわりが尋常ではなく、常人では考えられないほどに、味にこだわり、最高のコーヒーを淹れるべく試行錯誤を続ける模様が描かれていいます。コーヒーへの執念というような、美味しいコーヒーというのはどういうものかを徹底的に探求する姿があり、自家焙煎に対する手法も三人とも異って、それぞれのやり方が丁寧に語られています。
 この三人はコーヒー屋の「御三家」と言われる超有名人のですが、実際のところ私はお店に行った経験がありません。東京は遠いですから。岐阜県の田舎に住む身としては、気楽に東京へは行けませんし、「オラ、東京さ行くだ~!」ってくらい気合を入れないと行けなったのです。でも、そのおかげで特定の人の信者になったり、師と仰いだりすることもなく、自分の進む道を一人で探すことが出来たのかも知れません。

 東京へ行けない代わりに、開業までの間にコーヒー関連本を幾つか読んだのですが、その中には今回の本に登場する田口 護氏のものがあります。

・コーヒー味わいの「こつ」(柴田書店:1996年3月)
・田口護の珈琲大全(NHK出版:2003年11 )
・カフェを100年、続けるために(旭屋出版:2010年10月)
・田口護のスペシャルティコーヒー大全(NHK出版:2011年5月)
・コーヒー おいしさの方程式(NHK出版:2014年1月)
・「カフェ・バッハ」のコーヒーとお菓子(世界文化社:2014年10月)

 今回、改めて「コーヒーに憑かれた男たち」を読み返してみた思ったのですが、コーヒーの知識も少なく、漠然と読んできたものが、実際にコーヒー屋を始めて2年半程経過した今読むとでは、まるで伝わる物が違っていることに気づきます。合図地を打つ箇所や、「いったいどんなコーヒーなんだろう?」と強い欲求が生まれたり、別世界の人のような不思議な感覚になったりと。でも、今を生きる私にとっては、この場所で、この町の人にコーヒーを届けることなので、自分なりのベストなコーヒーを目指すだけだと思うのでした。