一人一人に

 毎日のようにカウンターで一人座ってコーヒーを飲む方が、今月から入院生活を始められました。「来月から又来るから!」って元気に話してくれましたが、病状を考えると心配になってしまいます。

 先日、定期的にコーヒー豆を購入される方が、体調を崩されたようで、体重が2kg減って食事制限をされているそうです。帰り際に、「まめ蔵の豆は今年中は買えるから。」と言われ、返す言葉が見つかりません。

 今朝は、「明日は定休日でコーヒーが飲めないから、今日は飲みにこなければと思って。」と言って年配の方がカウンターに座られました。そして、コーヒーを飲みながら「やっぱり、ここのコーヒーは美味しいワ。」と言っていただきました。

 それぞれ高齢の方で、年齢は皆80代なので、適切な表現ではないかもしれませんが人生の終焉期です。自分自身も必ずそうした時期を迎えますし、それよりも早くなるかも分かりません。だからこそ、一人一人に美味しいと思っていただけるような一杯を淹れたいし、今の自分に提供出来る最高の状態の豆を届けたいと思います。

 30代で珈琲屋を始めていれば、そんなことなど考えもしなかっただろうし、人生の終わりなって想像できなかったろうな。いつも前ばかり見て足元なんか見ないし、ましてや後ろを振り返ることは無意味だと思っていたんだろうな。

 そんなことを考えていると、先ほど30代の女性がコーヒー豆を買いにみえました。開口一番「失敗しちゃったんです!某チューン店の豆を買ったら美味しくないんだもの。どうしても我慢できないから買いにきたの。」って。話を聞くと、夏休みで子供の世話で忙しく、コーヒーで気持ちを切り替えたいのに、それが出来なかったそうです。

 静かな老後を迎える人、慌ただしく日々の生活に追われる人、様々な人に飲まれるコーヒーだということを忘れず、午前中になくなった商品の補充のために昼の焙煎を始めます。一人一人に届けるため。