弘法乞食

 朝からお店の前の道に、多くの子供たちが歩いている様子が見えます。「そうか!今日は弘法乞食の日なんだ。」と気づきました。この地域では「弘法乞食」と呼んだり、「弘法様」や「弘法さん」とも言うお祭りがあるのです。

 弘法様とは、日本仏教界に多大な影響を与えた高野山金剛峯寺、真言宗の開祖、弘法大師(空海)のことです。庶民の教育や社会事業にも尽力し、日本有数の思想家です。書家としての才能も発揮しており、「弘法も筆の誤り」「弘法筆を選ばず」など、ことわざにもなっているほどの「仏教界のスーパースター」なのです。3月21日は、弘法大師の亡くなった日で、旧暦の3月21日には「正御影供(しょうみえく)」という弘法大師の御影を祀って供養する行事が日本各地で行われているのです。地域によってやり方も開催日も様々ですが、多くの地域では弘法様を祭っている家でお菓子や餅を配る風習が残ってます。

 子供たちが小銭(1円、5円、10円)やお米をお供えすることで、お祭りしてある家主から駄菓子がもらえるため、お祭りしてある家々を沢山回って、手提げ袋を駄菓子でいっぱいにしていますが、このお菓子を振る舞う理由には、弘法大師(空海)の生きていた時代は飢饉が多かったそうで、弘法大師が庄屋さんなどのお金持ちに「自分一人ではなく、貧しい人にも分け与えよう。」と説いて回ったことが由来とされているようです。

 そんな理由を知ることもなく、駄菓子が山のようにもらえるイベントとしての「弘法乞食」ですが、“お互いさま”の精神を学ぶ風習として、私が子供のころから続いている光景を微笑ましく眺めているのでした。