コーヒーの甘さ

 喫茶店をやってみたいと単純に思っていた頃は、まさか珈琲屋という形態になる事を夢にまで考えていませんでした。けれど、コーヒーについて学んでいく際、苦いだけのコーヒーという感覚を覆す、コーヒーの甘さを強く感じたコーヒーに出会って、コーヒーの魅力に引き込まれたのでした。コーヒー豆の産地や品種、生産処理方法で味覚が異なり、焙煎によってさらに複雑に変化するコーヒーには大きな魅力があったのです。

 現在もコーヒー生豆を焙煎し、日々抽出する過程の中で、焙煎後も香味が変化していくコーヒーに驚き、時には翻弄されているのですが、コーヒーの甘さについては理解できないことばかりです。そんな理解の甘い私に、コーヒーの甘さを教えてくれる本があります。

 20089月発行の『コーヒー「こつ」の科学』(著:石脇智広)によれば、「完熟豆には糖分が多く含まれ、それがコーヒーの甘みになるという説ですが、これは誤解です。(中略)なぜなら、生豆に含まれていたショ糖は、焙煎によってほとんどなくなってしまうからです。ショ糖は焙煎するとコーヒーの色、香り、酸味のもととなります。実際には果実の熟度が高くなると、焙煎時の色づきがよく、香りと酸味の豊かなコーヒーになるのです。ショ糖が甘みのもとになっているとすれば甘いカラメル香としてであって、舌に感じる甘みとしてではありません。では、コーヒーを飲んだときに感じる甘みはどこからくるのでしょう?これは私にとっても謎です。甘みにつながりそうな物質はあるのですが、答えはまだ出そうにありません。」

 このコーヒーの甘みの謎を少し解き明かしてくれたのが、昨年2月に発行された『コーヒーの科学』(著:旦部幸博)です。「コーヒーを飲む人たちの間では、しばしば「コーヒーの甘味/甘さ」が話題に上がり、特にスペシャリティーコーヒーをよく飲む人たちが、この焦がし砂糖のような香りのコーヒーを「甘い」「後味が甘い」と表現するようです。じつは、もともと生豆に含まれるショ糖の量は少ない上に、浅煎りの時点までにそのほとんどが熱分解されて、「(味覚としての)甘味」を感じるだけの濃度は残りません。それ以外の甘味成分もコーヒーからは見つかっておらず、「コーヒーの甘み」が実在するかどうかはずっと疑問視されてきました。しかし、それがフラノン類によって生まれる「(風味としての)甘さ」だと考えれば上手く説明がつきます。フラノン類は食品に甘い風味を付ける着香料にも用いられ、水に混ぜて口に含むと確かに甘さを感じます。」とフラノン類を指摘していましたが、どうもそれだけでは全てが納得できそうにもないようです。

 自分は科学者ではないからといって、科学者が書いた本に頼って全てが分かるほど甘くはないと思うのですが、お客様に提供するコーヒーを通してコーヒーの甘さの認知を広めていきたいと思っています。