楽しい ≠ 楽

 来店されるお客さまと色々な会話をするのですが、多くの方が現役を引退されておられます。「無理せず気楽が一番。」「道楽ぐらいがいいよ。」等々ですが、そう話される方々を見て、余り楽しそうには見えません。気ままに友人と出かけたり、夫婦で毎週のようにドライブに行かれる方に対して、羨ましいと感じた事がないのです。
 この世の中には似て非なるものがたくさんあります。その一つに『楽しい(たのしい)』と『楽(らく)』という同じ字を使っても意味合いの違うことです。『楽しい』とは、苦痛、難しさ、大変さなどを乗り越えたり、解決した先に『楽しさ』を感じるもので、そうした『一連のプロセス』全体の事を言うのだと思います。
 同じ字を使う『楽(らく)』は楽しさとはずいぶん違う位置関係にあり、むしろ、楽しいの反対側にあると感じています。努力の先で得た楽は楽しさに繋がるのかもしれませんが、何の努力や準備もせず楽ばかり求めてしまうと、かえって楽しさと離れるばかりとなり、何をやってもつまらない、満足感が得られない、欲求不満状態に陥り、ついには不平不満を言い出して、さらに楽を求めるという結果になってしまうと思うのです。
 楽しさとはプロセスだと思います。あれこれ考えながら準備をし、失敗を繰り返しながらでも結果が出た時には、達成感や満足感から楽しいという感情が初めて生まれます。こうしたプロセスを小さいながらも積み重ねていくことが、大きな楽しさになっていくのだと思います。
 若いころには、仕事の中で小さな成功経験(プロセス=楽しさ)を積み重ねる経験ができた環境がありましたが、元同僚との会話の中でも、そうした余裕が無くなって、ミスの許されない結果重視の職場環境になったと嘆いていましたが、職場に限らず社会全体が余裕のない雰囲気になっているようにも感じます。

 商売として自家焙煎店を経営している私にとっても、経営として成り立つのか結果が全てかもしれませんが、プロセスを大切にしながら、難しさや大変さ、多少の失敗も経験しながら『楽しい』に繋げていきたいと考えています。その中で、小さな峠を越えたり、小さな結果を出した時のご褒美として、妻との旅行もしてみたいものです。(一番の楽しみ)