コーヒーでおもてなし

 新語・流行語大賞に選ばれた「おもてなし」。この「おもてなし」とは、客に対して心のこもった待遇や歓待やサービスをすることですが、語源は二つあるようで、1.「もてなす」の丁寧語、言葉の通り、「客をもてなす」の「もてなす」からきています。「もてなす」は、「モノを持って成し遂げる」からきており、お客様に応対する扱い・待遇のことを指します。ここでいう「モノ」とは、目に見える物体と目に見えない事象の2つを示しています。もうひとつは、2.「表裏無し」。これも字の如く、表裏がない心でお客様を迎えるということです。この2つが合わさって、一般的に「おもてなし」の語源とされているそうですね。

 この「おもてなし」をコーヒーで行っているのがエチオピアです。「コーヒー・セレモニー」といって、コーヒーを飲むことを儀式化した作法の一つです。エチオピアではカリオモン(Kariomon)と言い、「カリ」とはコーヒーノキの葉、「オモン」は「一緒に」という意味です。日本の茶道と同様、コーヒーを飲むという行為に精神的な要素や教養などが含まれる文化的な習慣で、他者に対する感謝ともてなしの精神を表すものなのです。

 エチオピアでは結婚前の女性が身につけるべき作法の一つとされており、冠婚葬祭の際や、大切な客を迎える際などに行われています。使われるポットやカップなどの茶器は女性が実母からや嫁ぎ先で代々受け継がれてきたものであることもあり、客の前でコーヒーの生豆を煎るところから始め、3杯飲むことが正式であることから、1時間半から2時間以上かかる場合もあります。その間は香を焚き、客はパンやポップコーンなどを食べながら待つのです。

 コーヒーとは本来こうした形で広まったのです。各家庭で豆を煎って臼で挽き、淹れたてを楽しんだのですが、産業革命とともに、時間に追われる生活様式となり、アメリカ型の大量生産・大量消費の文化によって、インスタントコーヒーが定着しました。日本には、このような家庭でコーヒーを淹れる文化がないところに、コーヒー飲料の習慣が入ってきたので、コーヒーは外の店で飲むことが当たり前になったのです。今でこそコーヒー豆を購入する人が増え、家庭で楽しむことも普通になりましが、エチオピアのコーヒー・セレモニーとまではいかなくても、家庭内でゆっくりとした時間の過ごし方が、このストレス社会においては必要なのではないかと改めて感じています。

 ちなみに、私は毎朝、妻に美味しい挽きたてのコーヒーを淹れております。我が家のミニ・コーヒー・セレモニーですね。